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完璧な涙



完璧な涙』は多彩な作品だ。
主人公は感情のない人間、無感動症の少年、本海宥現(もとみ・ひろみ)だ。彼は本海家の次男として生まれたが、生まれつきの無感動症によって非社交的・非家庭的な人間として育つ。人々にとって彼は何を考えているのかがわからず、彼もまた涙を知らない。『雪風』の深井零が自分から殻に閉じこもるタイプの印象があったのだが、彼は生まれつきの障害で、零よりもよりいっそう機械的とも言える。
彼の世界は現代の東京を模してはいるが、そこには『銀妖子』というトリックがあり、ここがSF的な世界だとわかる。世界は砂漠化しており、宥現の住むIC8という都市は作られた街だ。銀妖子は夜に街の掃除を行う。砂を捨て、壊れたものは彼らが元通りに直していく。世界の人々は彼らが妖精だと信じているが、宥現は彼らの存在に懐疑的だった。
ある夜、宥現は銀妖子をライフルで撃ち殺してしまう。
事件をきっかけにもともとノイローゼ気味だった宥現の母親は悪化し、父親は宥現を長男の仕事に従事させることで、家から離れさせることを決意する。
長男の仕事は砂漠に眠る過去の都市を蘇らせることだった。宥現はここで銀妖子の正体を探れるのではと期待するのだが、発掘されたのは黒い『戦車』だった。一見して機能していないそれは、一時的に機能を低下させた過去からの殺戮マシンだった……。

物語の基本はこの戦車に追われる身になった宥現の戦いと、彼を愛する数百年を生きる女・魔姫と、宥現の失った感情の在り処や真相を探求する、ロマンありSF考察あり、メカ描写も満載とバラエティに富んだ作品になっている。メカ描写は雪風を思わせるほど刺激的でリアルだ。ロマンスの描写も神林作品にしては純であり、人間の感覚の考察は『ライトジーンの遺産』に通ずるものもあり、通して読むと考えさせられる。『完璧な涙』はこれらをうまくミックスさせることに成功しており、神林作品の中でも読み応えのある一作だと感じた。
オチはまぁすっきりと終わっているのだが、けっこうあっさりしすぎている感もある。だがくどくどと続けられるよりはこれもありだとは思う、というかありだ。本編の内容が見た目以上にボリュームたっぷりなので、あそこで終わらせたのは読後に考える時間をもらえたのだと考える。神林長平のメカ描写が好きな人は見逃せない一作だ。特に初めて主砲を放つシーンは鳥肌が立つ。
今作では砂漠が舞台なせいか、『乾き』と『潤い』の二つのイメージを連想させるシーンが多い。宥現を襲う連中は大抵がミイラで乾いた存在だ。砂漠で乾きは死に直結する、しかし砂漠で水に溺れるシーンもある。相反しているイメージが敵になるというのは、この作品のテーマのひとつ『過去と未来の対立』と似ているような気もする。いや実際には過去と未来は相対できるものではないと思うが。

調べてみるとラジオドラマもあったようで、こちらは青春アドベンチャーと銘打っている。フムン。
某動画に前後編であがっているようだ。非常に長いので聞くのは後日になりそう。
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テーマ : 読書感想文
ジャンル : 小説・文学

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