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アンブロークンアロー戦闘妖精・雪風



雪風が帰還する――満を持して我々の前に舞い戻った『氷の女王・第三部』は、意外な人物の手紙から始まった。
雪風の最新作、神林長平の新作、そして日本SF――どの視点から見ても、この『アンブロークンアロー』は一大傑作に違いない。当然、この作品は続き物であり、多くのストーリーには過去の出来事が(以前の雪風よりずっと)絡んでくるため、初見の読者には向かない。しかし、この圧倒的な読後感を味わいたいなら、今すぐ『戦闘妖精・雪風<改>』と『グッドラック戦闘妖精・雪風』を読むべきだ。
雪風は、ジャムは、身近にいる。

※以下、ネタばれ込み雑記

■ロンバートからの手紙

正直、ロンバートという人物については今まで靄の中という印象だった。
『グッドラック』の終盤に突如として(前振りはあったものの)ジャムに寝返る男、として登場した彼だが、彼の異常さとかその根底の欲などを描くにはグッドラックでは足りない、といった感想だった。
『アンブロークンアロー』では彼の手紙がリン・ジャクスンに届くところから始まる。この時点でのリンの一人語りから今作のテーマは始まっていた。『無意識』と『言葉』だ。
さらに加えればリンの今まで語られてこなかった『肉親』の話が出てくる。雪風の今までのストーリーでは人間が見た機械、そして機械の恐ろしさがメインだったが、今作は逆だ。
『機械から見た人間――人間とは何か?』
ロンバートは手紙の中で自意識と無意識の差というか、違いを語る。人間に認識できない流れが無意識で、自我・自意識とはそれを言葉として汲み取ることで形成されるもの。
これが読者に最初に提示される、ロンバートや雪風、零の疑問だろう。

■神林長平のテクニック

今作では中盤ごろから雪風がジャムの干渉を受けて利用、SFではよくある『存在の不確定状態』に陥る。自分がそこにあってそこにいない、という平行世界ものでもよくあるお話だ。これによって零や雪風、ロンバートの意思は混濁し、それが文章にも表れていく。文章の主体がばらばらになっていく、のだ。ジェイムズ・ブッカー少佐とリディア・クーリィ准将の場面で、突如として文章の主体がぶれはじめる。
これには驚かされた。一歩間違えれば読みにくい駄文となりかねないのだが、なんとか無難にまとめてはいると思う。挑戦的だと思った。
ここでの語りの面白いところは、意外と知られていなかったリディア・クーリィという人物の掘り下げだ。エディス・フォスやジェイムズ・ブッカーなどの人物にもスポットが当たるのだが、雪風が始まって30年という月日が流れて、初めてその素性の片鱗のようなものが語られる。ファンにはかなり、笑える部分でもある。<改>への改定のとき一番の変更部分が彼女の台詞だったようだが、当時からのファンにはこれほど驚く展開が予想できただろうか。
あと好きな飲み物の話もおもしろい。単純にキャラ的な視点でだが。ブッカーがココアなのはまあいいとして、零がビールか。確かに飲んでたもんな、黒ビール。

■雪風の視点/ジャムの目線

今作では視点や時間軸がかなりばらばらで、多様に変化する。というのも、時間などの概念の外にいるジャムの目線の再現だと思うのだが、読者はついていくのに必死になるだろう。
しかしそこに、序盤で語られたロンバートの言語化することの意味を重ねていくとき、この文章が実にジャム的な文章であると気づく。読者は実際に文章でジャムの思考を追えるのだ。これには感動した。神林先生がジャムを表現したいと言っていたという、これが答えなのか。

■フィナーレ
雪風に読者が求めているすべてに神林先生は答えてくれていると思う。
SF的な哲学、探求、追求といった部分も当然だが、登場人物の掘り下げももちろんやっている。
そして雪風という戦闘機の表現。
まさに最後のシーン、雪風が魔を祓う矢であると表現したそのシーンでは、身震いするほどの感動を残してくれた。
それは当然、雪風が戦闘機という物体でなければ出ない表現であり、実際に雪風が魔を祓う矢だと、そういうイメージを自然に抱けるほど、雪風という存在のインパクトが強いからに他ならない。
魔を祓う矢――アンブロークンアロー。
これほど雪風にぴったりな言葉があったとは、すばらしい言語化だ。
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